「Art Work / Mind Set」頒布にあたって

フィルムレコーズが初めてニコニコ動画で作品を発表したのは2013年の2月でした。
この頃、僕はまだ音楽業界での立ち位置を確立することができず、なんの実績を残すこともできないまま、仕事としての音楽もままならず、将来に多大な不安を抱えながら、とある音楽ソーシャルサイトで自分の音楽を発信しており、そこで同じく音楽活動をしていた、当時まだ高校生の「わいせつの人」に出会いました。

そこから一緒に音楽をやるって話になり、ノリでCD出そうぜってM3に参加したりして、楽しかったからなんか続ける流れになって、そのうちに僕はDTMの本を書くことになったり、リュンカさんはゲームの主題歌を歌うようになったりと道が拓けていったりして、どうにかこうにか二人とも今もこの業界にへばりついています。

「一緒に音楽をつくるパートナーにはそうそう出会えない」と僕は思います。
楽器や演奏、歌が上手い下手ではなくて、アレンジのクオリティーが、ではなくて、人の評価とまるで関係のない、個人的なこだわりの部分を共有して、つきつめていく、というひねくれた部分がシンクロする、そんな奇妙なバランスが、フィルムレコーズの音楽にはあるのではないかと思います。

音楽は時代とともに形を変え、どんどん変化します。
多くの人の支持を集めるものだけが人の目に触れるようになり、昔でいうサブカルチャー的な作品は淘汰されてしまうのかもしれません。
「聴きやすさ、分かりやすさ」を重視する傾向はストリーミング化でさらに拍車をかけるでしょう。

僕は「自由に発想された創作物」が好きです。
それが聴く人間にとって価値があってもなくても、市場にそっぽを向かれてしまっても、その発想は十分に刺激的で愉快で、クリエイティブな心を揺さぶってくれるからです。
盛り上がれる、感動する音楽もいいけど、いろんな形の体験があったほうが楽しくない?

そんなさまざまな経験をあたえてくれた数々な奇妙な音楽が、僕の音楽観を作っています。

フィルムレコーズは、そんな時代の中で僕らが「自分たちの無駄なこだわり」に対して、惜しみなく創造性と労力を注いだ「趣味の音楽」です。
でたらめに作られている曲も多いですが、自分たちを作ってきた音楽のように、誰かの記憶の片隅に僕らの音楽が残ってくれればまぁ、少しは世の中の役に立っているのかな、という気になります。

6年という節目でもなんでもない2019年のベストアルバム。
僕らの今までの軌跡を、全曲リマスターで命を吹き込み直しました。

M3いらっしゃる方はぜひ会場お手に取っていただければ嬉しいです。
本作は各種ストリーミングでの配信も予定しておりますので、会場にお越しになれない方はitunesやspotifyなどでお楽しみくださいませ。

フィルムレコーズの音楽、ぜひ楽しんでください。

2019/3 高岡兼時